筑後らしさと列車の魅力を詰め込んだ、新たなかたちのロゴデザイン

イチゴにお酒、川下りなど、筑後ならではの地域資源や名物をあざやかな赤色で描いた「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」のロゴ。今までの列車にはなかった斬新なデザインで、運行開始が待ち遠しい!との声をたくさんいただいています。これを生み出したのは、数々のブランディングやパッケージ制作等で活躍されているグラフィックデザイナーの福岡南央子さん。列車への取り組みは初という福岡さんに、今回のロゴ誕生までのストーリーやその思いを聞きました。

筑後には、直感で味わえる魅力がたくさんある

「列車のグラフィックには素敵なものがたくさんあって、個人的にもそれらを見るのが好きです。鉄道デザインのお仕事ははじめてでしたが、お話をいただいたとき素直にやりたいと思いました。製作にあたり、まず『従来の列車らしいデザインにするのか、それともこの観光列車のコンセプトを表現するのか』をお聞きしたところ、『地域の魅力を表現しながら、お客さまに楽しんでいただける新しいものにしたい』という説明をいただいて、生活に根ざした乗り物のデザインができるのはとても面白そうだと感じました」

デザインは、まず地域のリサーチから始まりました。福岡さんは筑後を知るにつれ、この土地の広さと、それゆえのひとくくりにできない多様性、その中にある重層的な魅力に気づいたといいます。

「それが何かというと、美味しい食べ物や手工芸品、自然といった、とてもプリミティブなもの。誰もが直感的に『いいな』と感じられるものが多かったので、『プリミティブ』というキーワードがまずありました。さらに、ロゴの一部になっている遺跡もヒントになっていて。西鉄さんに聞いたらさほど有名ではないそうですが(笑)、そこで目にした絵がとても印象深くて、ものを象徴的に表そうというイメージが湧いたんです」

そうして得たさまざまな発想に、食を楽しめる電車というこの観光列車らしさを重ね、ロゴの形ができていきます。

 

この地でしか生まれなかった新しい発想

「『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』は、列車のコンセプトをそのまんま表した、とても分かりやすい名前です。その名前がしっかり見えて、あとは筑後の様子が絵で見えてくれば、それでロゴが成立すると思いました。従来のロゴ+マークという形式でなくても、パッと見てどんなものか分かる。そして、いろんな距離感で楽しめることも意識しましたね。遠くから見たら文字だけど、近づいてみるとイチゴがあるね、これはお酒だね、と地元らしさを感じられるデザイン。モチーフの中にはあえて具体的に表現していないものもあって、それを見る人が自分なりに『これは◯◯かな?』なんて想像しながら見てもらってもいいなあと思います。全体の印象として、親しみやすい電車にしたかった。台所がやって来ました、みたいな佇まいで、どの世代が見ても分かりやすく楽しい、感覚に訴えかけるものにできたらと考えていました」

誰からも愛される、地域に根ざした電車。そこに福岡さんのアイデアで新しさや面白さが加えられていきます。

そんなプロセスを経て提案されたデザインについて「ロゴの中に絵柄を組み込むという、今までにはなかった発想がとても画期的で斬新でした。4案ほどいただきましたが、見た瞬間にみんなが『これしかない!』となったんです。西鉄さんの『地域に密着した列車にしたい』『筑後を活性化したい』という思いも汲み取られていましたし、この列車にとてもマッチしたロゴだと感じました」と語るプロデュース担当のトランジットジェネラルオフィス・平野さん。それを受けて福岡さんも「たしかに、筑後を知ること、そしてキッチンがある列車という存在がなければ思いつかなかったアイデアだと思います」と振り返ります。ちなみに赤というカラーは、車体の外装を考える段階で決まりました。「みんなが集う台所をイメージしたら、ふとキッチンクロスという案が出てきて、そこに赤を使ってみたらどの色よりしっくりはまったんです」との言葉通り、眺めていると清潔で和やかな空間が目に浮かんできます。

使う人の日常に溶け込む存在になれたら

さて、そうしてロゴも外装も順調に仕上がっていきましたが、制作の上で苦心された点や試行錯誤などはあったのでしょうか。

「ロゴもチェック柄も、今までの鉄道にはなかったデザインですから、大丈夫かな?というドキドキは正直少しありました。それと、業種ならではのセオリーがあるなか、あえて違う新しいものを取り入れるのは、私よりも運営側である西鉄さんにとってパワーが要ることだと思ったので、そこをサポートしたいという気持ちもあり。挑戦するからにはきっちりやろう、と、デザイン的にもコンセプトを伝えるという意味でも、より整合性の高いものを目指しながらまとめていきました。この列車らしさを表現することを第一に、みなさんと密に確認を取りながら、その中で私なりのチャレンジやアイデアを活かせたらいいなと思っていたので、このロゴは自分の作品というよりも、みんなで作り上げたものという感覚があります」

そして、デザインは発表することがゴールではなく、そのあとが大切だというのが福岡さんの考え。

「この列車は、乗る人がいて調理する人がいて…という状況に置かれるものですから、そこできちんと機能するものを作りたかったし、それを目にする人がどう感じるかも意識しました。そしてその目的に向かってみなさんと作り上げていくプロセスも楽しかった。そんなふうに作ったロゴだから、この列車が地域の人たちに使い倒してもらえたらいいなと思います。誕生日祝いにとか、デートで乗ろうとか、沿線に住むみなさんにとって、日常のいろんな場面で役立つ存在になったら嬉しいです」

土地を知り、私たちの日常を思い描く。そうして生まれたロゴをまとった列車が、筑後の新しい顔として間もなく走り出します。