2018.11.09TOPICS

自由な発想で“筑後のものづくり”を紐解いた空間デザイン

観光列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」の壁や床の一部には約400年の歴史を持つ城島の瓦が、天井には八女産の竹を使った竹編み生地が使われています。車両の細部にいたるまで、長きにわたり地域に根付いてきた技術や、地域で採れた素材がふんだんに活かされた内装デザインを担当してくださったのは、Landscape Productsの、きたはた裕未さんと新川智也さん。

「LOCAL to TRAIN~街を繋いできたレールは人をつなぐ時代へ~」のコンセプトを体現するデザインはどのようにして生まれたのか? プロジェクト発足当時を振り返りながらお話しを伺いました。

きたはた裕未
1981年生まれ。インテリアデザイナー。2006年、ランドスケーププロダクツ入社。2015年に独立。現在は外部デザイナーとして関わっている。

新川智也
1988年生まれ。2014年、ランドスケーププロダクツ入社。現在はインテリアデザインの部門で商業施設や住宅のデザインを担当している。

暮らしと一体となった地域の魅力を探して

きたはた:
「プロジェクト開始当初は、制約の多い鉄道車両に、地域素材を組み込むのは無理ではないかという話も出ました。ただ、観光列車を走らせる目的やコンセプトについて、西鉄さん、プロデューサであるトランジットさんと話しを重ねるうちに『沿線の魅力を地域内外に広く伝える』というテーマが明確になり、それに応える形で地元にまつわる技や素材を使う検討が始まりました」

土地に根付いた技術や地域らしさを引き立てる素材の候補を洗い出し、内装に使えるアイデアがないかを模索、最終的にはデザイナーのお二人にも現地に足を運んでいただき、ものづくりの現場を視察しました。そこから得た情報やインスピレーションは、その後のデザインにも多く活かされたといいます。

新川:
「城島瓦協同組合の渋田瓦工場にお邪魔した際に、ご自宅の庭のアプローチなどにも瓦が上手にあしらわれているのが印象的でした。長く使われているうちに瓦の角が取れて丸みが出た瓦もあって、一般的な瓦の使い方にはない面白みを知ることができましたし、色や形を考えるうえでの大きなヒントにもなりました」

きたはた:
「城島瓦も竹編み細工も、長年にわたって地域で愛されてきたものですから、せっかくなのでできるだけオリジナル性を残したい。でも、新しさや特別感は必要ですから、そのあたりのバランスを考えることにとても時間をかけました」

衝撃や温度の変化に強い城島の瓦は、建築用として使われることがほとんどですが、今回のデザインでは大胆にも瓦を壁面の素材に使用。“いぶし銀”とも讃えられる城島瓦独特の質感に包まれた空間に一歩足を踏み入れた瞬間に新鮮な驚きを感じられる空間となりました。

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魅力の本質を残すために試行錯誤の連続

車内に使われている瓦は、一枚一枚色が異なり、全体でグラデーションになっているところが特徴的です。しかし、この表現に行き着くまでにもさまざまな葛藤があったと言います。

きたはた:
「いぶし銀は瓦独特の味のある色ですが、一色ではデザインの幅が限られるので、壁面にタイルとして使用するにあたっては、少し色のバリエーションが欲しいと思いました。しかし、いぶし銀が特徴の城島瓦に色付けのために釉薬を使ってしまうと、それはもう城島瓦とは言えないのではないかという意見もありました。城島瓦の特徴を損なわず、色を出すにはどうしたら良いのか。最終的には福岡県工業技術センターの阪本さんからアドバイスをいただき、炭素量をコントロールすることで、釉薬を使わず焼き色を変えることができました。瓦だけでなく、天井に使用した竹編み生地や大川でつくる家具など、空間のすべての場所でアイデアを出し合いながらベストの方法を探っていったという感じです」

ふだんは建築の世界で、空間デザイナーとして手腕をふるうお二人にとって、列車の車両空間のデザインは初めての体験。そこには思いもよらない苦労もあったはずです。西鉄や車両メーカーである川崎重工業株式会社とはどのようなやりとりがあったのでしょうか。

新川:
「当たり前ですが、建築物とは違って車両は動くものなので、振動は避けられません。照明の設置ひとつをとっても、振動に耐えられる器具とそれに応じた設置方法が求められます。壁や床の不燃など法的な制約も色々ありました。ただ、今回は、観光列車という新しい挑戦ですから、車両の常識にとらわれすぎないように、『どうすれば実現できますか?』『こういう方法ではどうですか?』と、私たちからも提案することで着地点を探すようにしていました。僕らデザイナーと川崎重工業さんの間に入って調整してくれたのが西鉄のご担当者でした。すり合わせるのは大変だったと思いますが(笑)、おかげで安易な妥協をすることなく、納得いくまでデザインできたと思っています」

きたはた:
「もともと、『予算はいくらでもあるからおまかせ』なんて仕事は苦手で、制約の中で、ひとりひとりのお客さまにあった形を探すことを大切にしています。職人さんと言い合いながら作る現場が好きで、オーナーと一緒に塗装をし、その予算を他に回したこともあります。川崎重工業の方々は経験豊富で、できるだけ私たちが取り入れたい素材や技術を使えるように、いろいろとアドバイスをいただきました。すごく心強かったですね。振動で動くことを考慮してタイルの目地の幅を広くするなど、新しい気付きや経験もたくさんありました。今回の仕事をしてから、電車に乗ったときに、これまで見ていなかった部分に目がいくようになりました(笑)」

特別感を味わいながらも、わが家のような居心地を

車両であるがゆえの制約も多くある中、ランドスケーププロダクツのお二人をはじめ、プロデュース会社のトランジットジェネラルオフィス、川崎重工業の力を借りて、電車の車両であることを忘れ、まるで自宅でくつろいでいるかのような空間デザインが実現しつつあります。

新川:
「食事をする列車とはいえ、レストランというより、西鉄が沿線の食材を使った自慢の手料理でお客さまをもてなす空間、わが家のような居心地を目指したいという想いがありました。家のような空間にするため、一般的な電車の車両に使われる定番の素材はできるだけ避けました。たとえば座席のクッションは通勤車両では、パイル地が一般的なのですが、今回は、日常を感じてもらえる織物にこだわりました」

きたはた:
「特別な電車だといっても、ラグジュアリーにしすぎるのではなく、それぞれの素材感を大切にしました。それが、自然と暮らしの距離が近い西鉄沿線や筑後らしさにつながる気がしたので。福岡ご出身のデザイナー鹿児島睦さんにデザインをお願いしたTINパネル(ブリキのパネル)もステンレスやアルミなどでも異なる素材で試作して素材感を確かめました。クッションもそうですが、ぜひ触って素材の手触りを楽しんでもらいたいですね」

地域への想いの結集が、地域ならではのデザインを生んだ

きたはた:
「福岡県民のみなさんの気質もあるかもしれませんが、企画を担われる西鉄の吉中さんをはじめ、みなさんが地元に対して情熱を持っているのをいつも感じました。地域の技や素材を取り入れるときもそうですし、常にお客さま目線で『座り心地をよくするためにこうしましょう』など、熱いご意見をいただいて。デザイナーとして、何とかしてその想いに応えたいと思いました」

新川:
「その土地の環境やその場所でしか成立しないデザインを意識して、今回デザインをさせていただきました。お客さまが実際に乗車されたとき、その思いが伝わるといいなと思います」

沿線の魅力や風土を汲み取り、細部までデザインの工夫が施された観光列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」。瓦をタイル材に使用したり、車両特有の振動に負けぬ安全性とデザイン性の両立を追求したりするなど、お二人の既存の概念にとらわれない自由な発想がつまった空間に仕上がりました。食べる、乗る、触れる。実際に体感することで、その魅力がさらに高まりそうです。ぜひ新しい筑後の魅力を間近で感じてみてください。