“街の足”から“旅する乗り物”へ 地元愛が詰まった西鉄の新型観光列車とは?




2019年春、西日本鉄道から新型観光列車がデビューします。西日本鉄道といえば、約100年間に渡って市民の足「西鉄」として親しまれていますが、本格的な観光列車の運行は今回が初めてです。

西鉄のメイン路線といえば、福岡(天神)から、二日市、久留米、柳川などを経由し、大牟田まで74.8kmの西鉄天神大牟田線。通勤や通学で最も利用されている区間です。

そんな“日常の風景”を走る西鉄電車初の新型観光列車は、「LOCAL to TRAIN~街を繋いできたレールは人をつなぐ時代へ~」がコンセプト。観光客はもちろん、通勤や通学で利用されている地元の人にとっても、福岡の新たな魅力が感じられる仕掛けが用意されています。

そこで今回は、新型観光列車の秘密を探るべく、西鉄の事業創造本部観光事業部課長として企画を担う吉中さんと、観光列車のプロデュースを担う株式会社トランジットジェネラルオフィスの甲斐さんにお話を伺います。


西日本鉄道㈱事業創造本部観光事業部課長
吉中美保子さん
西鉄の中でも、沿線の生産者や加工者と消費者をつなぐ街づくりの企画を多数手がけるアイデアウーマン。自身が企画に携わった沿線アンテナショップ「西鉄縁線駅みやげ」では、生産者一人一人の元へ足を運び、1ヶ月で企画から出店にこぎつけた。新型観光列車プロジェクトでもそのアイデアと行動力はフルに生かされている。

トランジットジェネラルオフィス プロデューサー
甲斐政博さん
トランジットジェネラルオフィスにて、アパレルや車メーカーなどブランドのカフェやレストラン、商業施設、オフィス、住宅などのプロデュースを手掛ける。(http://www.transit-web.com/) 東京に住みながらも、すっかり福岡ツウになりつつある。宮崎県出身の九州男児。

プロジェクトの始まりは西鉄流のおもてなしから
大牟田線の車窓に観光のヒントあり!?



今回は、西鉄筑紫駅の先にある車両基地にて、停車中の一般車両の中でお話をお聞きします。いつもは乗客でにぎわう車内も今日は貸切状態で新鮮な印象です。ロングシートに腰掛けて、旅行気分で対談スタート。

―今回おふたりが観光列車に携わる事になったきっかけを教えてください。


吉中 観光列車にはトータルのブランディングが大切だと思ったので、まず、全体プロデュースをしてくださる方を探しました。

甲斐 電車をプロデュースする機会は、なかなかあるものではないので、新型観光列車のコンペに参加しないかと声をかけていただいた時は、断る理由がありませんでした。実家が九州で、西鉄のことも良く知っていましたし。

吉中 トランジットジェネラルオフィスさんは観光列車を手がけられた実績もあるし、九州内外のクリエイターの方ともつながっていらっしゃいます。デザインから実際の電車を作り上げるまでのノウハウを持っていらっしゃる点が、コンペの決め手でした。一緒にお仕事をするようになって感じたのは、甲斐さんは九州のご出身なので、都会の感覚とローカルの感覚どちらも持ち合わせていらっしゃるということ。甲斐さんにとって、九州の仕事はどうですか?

甲斐 ありがとうございます。僕らにとって九州はいろいろな可能性を持つ場所。九州の仕事は、これからも積極的に行っていきたいですね。

―甲斐さん、最初に福岡に来た時の印象はどうでしたか?


甲斐 最初、吉中さんが西鉄沿線の面白いスポットを案内してくださったのが思い出に残っています。ちょっとした旅に出かけた感じでした。

吉中 そうでしたね! 最初は大牟田に行きましたね。

甲斐 大牟田で、有名な草木饅頭を買いに行ったら、帰りの電車時間ギリギリになってしまい、焦って階段を走りましたね(笑)。大牟田線の第一印象は、住宅の中を走っているので、「街の足」として日常に馴染んでいる電車だなと感じました。東京にも住宅街を走る電車はあるのですが、大牟田線から見える素敵な景色は、東京とはまた違っていました。特に、川を渡ると景色がガラッと変わってきますよね。

吉中 筑後川ですね。橋を渡るところで、音が変わる。

甲斐 まさに。今回の観光列車の仕事を前に、地元の方にインタビューをした時に、その景色が象徴的だよという話を伺っていて。やはり、実際に見たときは印象深かったです。

吉中 西鉄沿線のいいところって、「都会の良さ」と「田舎の良さ」の両方があるところだと思っています。天神へ通勤通学するにも便利ですし、天神を離れると田園風景とかこだわりのお店とか、いろんな場所がある。一つ一つは小さくて、洗練されていない面があるかもしれないけれども、そういうものが集まると、一つの特徴的な流れみたいなものが味わえるのは魅力的ですよね。

甲斐 その時の体験を、今回の観光列車にも生かされていると思います。「街の足」から、いかに観光列車としての魅力をつけていくか、という発想がこのプロジェクトのはじまりだったように思います。

新しい仕掛けが盛りだくさん!
新型観光列車の見どころとは!?



―ズバリ、今回の観光列車の魅力とは?


吉中 やはり地域資源をたくさん取り入れている点です! 内装には、まず八女の竹を使った竹細工「竹編み」を採用しました。家具も大川で家具職人さんに作ってもらっています。あと、久留米の城島瓦も使っています。鉄道関連だと、線路に使っている福岡産の石をタイルにして列車の内装に組み込みました。壁には「ティンパネル」という模様が浮き出る金属素材を使っているのですが、そのデザインは鹿児島睦(かごしままこと)さんという福岡出身のアーティストの方にお願いしました。筑後川をイメージして描いてくださった図案です。

甲斐 他にも、内装は東京にある設計会社「ランドスケーププロダクツ」にお声がけしました。代表の中原さんは鹿児島県出身で、九州のいろんなクリエイターともつながっている方です。全体の外装やグラフィック、ロゴに関しては、アートディレクターの福岡南央子さんに依頼しました。とても洗練されているのですが、フレンドリーな雰囲気のあるデザインが魅力です。

あと、レストランのメニュー監修も沿線の野菜や果物を生かした料理を計画しており、食材の魅力を十分に引き出して頂ける、とても実力のある方にお願いする予定です。詳しいお話ができるのはもう少し先になりますが、とても素敵な料理を準備しています。

―九州以外の方も多く関わっていらっしゃるんですね?


甲斐 そうですね。西鉄さんは地元で安全を守りながら、人々の足として親しまれていますよね。沿線にはいろんな資源がありますから、僕らの役割は、その魅力を引き出しながら、新しいエッセンスを加えることで、更に魅力的なモノに仕上げて行くことだと思っています。東京を中心に、全国でいろんな空間やブランド作りをしている経験を生かして、西鉄さんの新しい魅力を全国に発信したいと考えています。

吉中 今回、観光列車に関わってくださっているクリエイターの皆さまは、私たちだけでは全く思いもつかないような方々ばかり。日本全国で仕事をされているトランジットさんならではの顔ぶれだと思います。地域の資源を発信するために、新しい何かを加えるには、やっぱり、外の方の視点も大事だと思うんです。

甲斐 今回の電車本体も何度も議論を重ね、デザインを詰めてきました。街中で観光列車を見かけた時に「今日はラッキー」と思わず笑顔になるような、そんな親しみやすいデザインになったと思っています。1月25日の記者発表でお披露目され、どんな反応が返ってくるか楽しみです。

地元の人にも、世界中の人にも楽しめる
“旅する乗り物”を発信して行きたい



―乗客の方には観光列車をどのように楽しんでほしいですか?


甲斐 もちろん沿線に住んでいる方にも楽しんでもらいたいのですが、九州だけではなく、日本中はもちろんのこと、世界中の方々にも楽しんでいただける列車にして行きたいです。車内で完結するのではなく、電車を降りて沿線を巡る楽しみもしっかりと発信したいと思います。電車って、やっぱり“旅をする乗り物”であると思うので。

吉中 通勤電車として親しまれている存在だからこそ、観光列車というスタイルで、食事をしながらゆっくり走ってみると、新鮮でいつもと違う発見ができるのではないでしょうか。九州内外で愛される列車を目指したいですね。そのためには、今回のコンセプト「LOCAL to TRAIN~街を繋いできたレールは人をつなぐ時代へ~」の通り、これから自治体や沿線地域など、いろんな人々とつながっていかなければならない。新型観光列車が、そうしたつながりのきっかけになっていくといいなと思っています。

「列車も料理も、列車自体は素敵なものに仕上がってきましたが、ここからが更に大事なんです。西鉄とトランジットジェネラルオフィス、そして地方自治体や沿線が協力して情報を発信することが、とても重要です。まさにこれからが正念場ですね」と、何度も情報発信の重要さを強調されていた甲斐さん。メニューやサービスなど、電車にかける思いを熱く語るお二人の横顔に、こちらも大いに期待をかき立てられました。新型観光列車の予約開始は秋頃、運行開始は2019年春からとなる予定です。徐々に明らかになる全貌を心待ちに、いまから旅の計画を立ててみるのはいかがでしょうか?

(取材/撮影 編集部)